詐欺により暗号資産を失った場合、確定申告での税金計算はどうなるか?

Webで検索すると、暗号資産の詐欺による損失に関して、以下で解説する雑損控除の規定のみを根拠として、所得税の計算上、所得から控除することはできないと断言している記事がいくつも見つかります。

しかし、実際には、雑損控除以外にも考慮すべき事項があり、詐欺による損失は経費として所得から控除できる可能性もあると考えられます。

まずは、所得税法第37条において、通常の必要経費が定義されています。

所得税法第37条第1項(必要経費)

その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

詐欺による損失は、ここでいう通常の経費としては認められない、と言えそうです。ただし、条文中に、「別段の定めがあるものを除き」とあり、「別段の定め」として、以下の条項に該当するか、それぞれ見ていきます。

  • 所得税法第51条第4項(資産損失の必要経費算入)
  • 所得税法第62条第1項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)
  • 所得税法第72条第1項(雑損控除)

所得税法第51条第4項(資産損失の必要経費算入)において、雑所得に関連する損失の取り扱いについて定められています。

所得税法第51条第4項(資産損失の必要経費算入)

居住者の不動産所得若しくは雑所得を生ずべき業務の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産(山林及び第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する資産を除く。)の損失の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額、資産の譲渡により又はこれに関連して生じたもの及び第一項若しくは第二項又は第七十二条第一項(雑損控除)に規定するものを除く。)は、それぞれ、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額又は雑所得の金額(この項の規定を適用しないで計算したこれらの所得の金額とする。)を限度として、当該年分の不動産所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入する。

この条文は少し複雑ですが、カッコを除いてシンプルに読むと、資産の損失は原則として必要経費に算入する、という内容になっています。

暗号資産が、「雑所得を生ずべき業務の用に供される資産」または「雑所得の基因となる資産」に該当するかどうかについて、個別具体的な判定は必要だと思いますが、通常、利益を得るために暗号資産の売買を行っている場合、これに十分該当すると考えられます。

次に、その詐欺による損失が、同条項のカッコ内の各例外事項に該当するかどうかの判定が必要であり、これらに該当しない限りは、必要経費に算入することができる、といえそうです。

同条項ではいくつか例外事項がありますが、暗号資産の詐欺による損失に関して問題になりそうな例外規定は以下2点です。

  • 第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する資産かどうか
  • 第七十二条第一項(雑損控除)に規定する損失かどうか

所得税法第62条第1項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)

居住者が、災害又は盗難若しくは横領により、生活に通常必要でない資産として政令で定めるものについて受けた損失の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)は、政令で定めるところにより、その者のその損失を受けた日の属する年分又はその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなす。

所得税法第72条第1項(雑損控除)

居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産(第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)及び第七十条第三項(被災事業用資産の損失の金額)に規定する資産を除く。)について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合(その災害又は盗難若しくは横領に関連してその居住者が政令で定めるやむを得ない支出をした場合を含む。)において、その年における当該損失の金額(当該支出をした金額を含むものとし、保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。以下この項において「損失の金額」という。)の合計額が次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に掲げる金額を超えるときは、その超える部分の金額を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。(中略)3 第一項の規定による控除は、雑損控除という。

上記62条、72条のいずれも、「災害、盗難、横領」を対象としており、詐欺は、「災害、盗難、横領」のどれにも該当しないため、暗号資産の詐欺による損失に関しては、両条項の適用はない、と言えそうです。

国税庁のタックスアンサーにおいても、詐欺による損失が雑損控除の対象にならない点は明記されています。

「詐欺」による損失は対象となりません。

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/05.htm

以上から、暗号資産の詐欺による損失が、所得税法第51条第4項(資産損失の必要経費算入)の例外事項のいずれにも該当しない可能性はあるものといえ、その場合には、詐欺による損失を必要経費に算入することは認められる、と考えられます。

もちろん、保険金、損害賠償金等により補てんされる部分の金額は、損失の金額から除く必要がありますし、暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合は、それも損失の金額から相殺しなければなりません。

暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1525.htm

ちなみに、上記のタックスアンサーにおいても、暗号資産の不正送金等によって生じた損失に関して、「雑所得の金額の計算上、損失が生じる」と記述していることからしても、(ここでは「詐欺」という単語は使われていませんが)、不正送金による損失を、”雑損控除”ではなく、”雑所得の経費”であると整理していることが分かります。

なお、一般論としては、盗難または横領と、詐欺の違いは、前者は、本人の意思に基づかない事由により損失が生じた場合であり、後者は、だまされたとはいえ、本人の自由意思に基づく行動により生じた損失である、といったところかと思います。

ただし、暗号資産の場合、これらの線引きが微妙なケースもあるかもしれません。また、詐欺かどうかに関わらず、確定した損失であることを証明するエビデンスは必要になります(これを用意するのが実際上は難しいケースもあると思いますが。。)

それらの個別の事例はまた、別の記事で考察してみようと思います。

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税理士紹介

中国に居住していた2014年ごろ、国際送金の煩雑さと手数料の高さに疑問を感じ、何かいい方法はないものかと調べていたところ、Bitcoinの存在を知る。

ブロックチェーンの仕組みに感動し、Pythonでウォレットを自作して遊んだり、マイニングに夢中になる。その一方で、ローカルウォレットを格納したハードディスクがクラッシュしてBitcoinを取り出せなくなったり、利用していた取引所の突然の閉鎖や盗難によりコインを失うといった経験もする。

2016年に帰国して自身の会計事務所を開設後、独自の損益計算ツールを開発し、現在に至るまで多数の仮想通貨の申告代理業務を請け負う。

 安田英介 公認会計士/税理士

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